大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和22年(ネ)35号 判決

控訴人

伊藤豐次

被控訴人

主文

原判決を取消す。

本件を旭川地方裁判所に差戻す。

請求の趣旨

原判決は之を取消す本件は旭川地方裁判所え差戻す訴訟費用は被控訴人の負担とす。

事実

当事者双方の事実上の陳述は被控訴代理人に於て原判決に事実として掲げられた被控訴人の買收計画の公告に関する主張中「買收計画の公告は旭川市の公告式條例(大正十一年八月一日條令第一号)に基いて爲したものであるから適法である」とあるのは誤りであるから「買收計画の公告は自作農創設特別措置法施行令第三十七條の規定に依つて旭川市役所の掲示場に掲示して爲したものであつて適法である」と訂正すると述べ控訴代理人に於て右の訂正に異議がないと述べた外原判決に摘示してある事実と同一であるから茲にこれを引用する立証として控訴代理人は甲第一乃至第四号証、同第五号証の一、二を提出し原審に於ける証人時田民治、井上佐市、西岡愛之助、原田一成(第一、二囘)荒谷圭三、山内和三郞、山本政治郞、藤井敬三、伏見茂雄、花輪武平、淸水武夫、山下甚藏、奥田光雄の各証言及び原審に於ける檢証の結果を援用し、乙第五号証は不知其の余の乙号各証は成立を認めると述べ被控訴代理人は乙第一乃至第七号証を提出し原審に於ける証人神原シメ、阿部英治、佐藤豐治、田中邦夫、橋本理助、若松宗七、川口重市、木下栄吉、時田民治の各証言及び原審に於ける檢証の結果を援用し甲第四号証は不知その余の甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

本訴は控訴人の主張によつて明かなように控訴人所有の甲農地が近く自作農創設特別措置法により買收せらるゝ恐れあるのを違法なりとして予めその買收処分の禁止を求めると共に控訴人所有の乙農地につき爲された同法による買收処分を違法なりとしてその取消を求めるものであつて從來このような違法な行政処分の取消を求める訴訟はその処分をした行政廳を当事者とすべきものとされてきたようである。しかし裁判所法の施行に伴い行政裁判法が廃止され、また裁判所法施行法により明治二十三年法律第百六号(出訴事項の制限に関する法律)が廃止され、違法な行政処分についてはてすベて裁判所に出訴してその取消、変更を求め得ることとなり一般の民事事件と同様民事訴訟法によつて審理及び裁判することになつたので、この種の訴訟の当事者をいかに定めるかが問題となつてきたのである。その処分をした行政廳を以て当事者とするというのは單に行政訴訟は行政廳の処分に対する不服の訴に外ならないから常に行政処分を爲した当該行政廳を当事者とするという見解に基いているばかりでなく行政処分の適法性そのものが直接訴訟の目的となつている訴訟について、その処分をした行政廳をその当事者として訴訟上の攻撃防禦の方法をつくさせることが手続の進行上も訴訟の適正妥当な解決を得る上にも便宜であり國務の処理の上からも相手方である國民の側からも便利であるとするにあるようである。これは、とりもなをさずこの場合の行政廳が権利の主体であり眞の爭の当事者であるから当事者として立つというのではなくこの種の訴訟に於ては互に権利を主張する当事者の対立があるわけでなく單に反対の利害関係を有するものと看做される行政廳が訴訟手続上にのみ当事者の地位に立たせられているに過ぎない。本來行政廳は國の機関として國を代表して公法上の行爲をするのであり権利の主体は國であるから行政廳の処分の取消を求める訴は実質的には國の処分の取消を求めるものに外ならない。從つてこの種の訴訟は実質的には國を当事者とする訴訟といい得るのである。されば眞の爭の当事者たる國を形式上の訴訟当事者から除外するのは爭の正確、公平な裁判を主眼とする訴訟に於て決して妥当なものとはいえぬこのことはまた行政処分が爲されないのに予めその行政処分の禁止を求める訴の場合でも同一であつてこのような請求が正当性をもつかどうかその当否は別として將來その行政処分を爲し得る行政廳のみを以て当事者とするのだという理由はない。そうだとすれば特別の規定のない現段階に於てはその処分をした又は爲すことを得る行政廳と國とのいづれを当事者と爲すも妨げないものと謂はねばならない。然るに原審は農地の買收処分を爲し又は將來爲すべき行政廳たる北海道知事を当事者とすべきものであつて國を当事者とすることは許されないものとして本件訴を却下したのは失当たるを免れないから民事訴訟法第三百八十八條に則り主文の如く判決する。

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例